こんにちは、そみ(@somi_koguma) です。
普段メディアを見ていてよく感じるのが、”家父長制社会から距離を置いた女性”のストーリーが極端に少ないということ。
幼いころから目にしてきたコンテンツの中の女性は、男性社会に属した状態で描かれることがほとんどで、誰かの妻役、誰かの母親役でもない、女性だけのストーリーっていうのが圧倒的に少なかったんですよね。
一見、経済力があって主体性があるように描かれていても結局は異性との結婚で物語が終わったり。
登場している女性が行き着くのはいつも家父長主義の承認によるハッピーエンドで、なんかなあ、他の生き方も描けないのかなあ、とモヤモヤすることが多いです。
だから、そういう家父長制から離れたストーリーに渇望しているというか、もっと多様なライフスタイル、セクシュアリティーを持った人の生き方を知りたい、その人達の生の声を聞きたいっていう気持ちが常にあってですね。
近年は韓国本の中でそういったストーリーに出会えることが多いので、夢中になって読み漁っているのですが、最近読んだエッセイ 『笛を吹く女たち - 女性間の生活・セクシュアリティー・親密性』も、私が渇望する女性間のお話が詰まった1冊でして。
「そうそう!こういうストーリーを聞きたかったんだ!」 と思えたフェミニズムエッセイでした。
ということで今回は、
- ・フェミニズムを学んでいる
- ・女性同士の連帯に興味がある
- ・非婚女性のライフスタイルに興味がある
方におすすめエッセイ、 『笛を吹く女たち - 女性間の生活・セクシュアリティー・親密性』を紹介したいと思います。
※今回紹介するのは韓国語で書かれた本です。
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非婚女性コミュニティBOSHU × イ・ミンギョン作家
このエッセイはイ・ミンギョンさんと、非婚女性のコミュニティを運営しているBOSHUが共同執筆した1冊。
クラウドファンディングによって出版が実現したエッセイで、約1800人の20代-30代から3880万ウォンの資金が送られたんだとか。
目標金額は300万ウォンだったというから、10倍以上の資金が集まったということですね。すごい人気ぶり。
BOSHUは大田(テジョン)で非婚女性コミュニティを運営しているグループでして。
雑誌を刊行したり、女性のためのサッカー教室やワークショップ開いたりと、非婚女性をサポートする活動をしているんだとか。
今回のエッセイにはクォン・サランさんとソ・ハンナさんの2名が執筆に参加なさっています。
BOSHUについてもっと知りたい方は、TwitterやYoutubeもご覧ください~。
そしてもう1人の執筆者、イ・ミンギョンさんは日本でも話題になったフェミニズム本『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない 』や、韓国の脱コルセット運動を記録した『 脱コルセット : 到来した想像』の著者です。
私もこの2冊は常に手の届くところに置いて、定期的に読み返しています。
ちなみに『 脱コルセット : 到来した想像』は2021年に邦訳版が発売予定とのこと。発売されたらまた改めてブログでも紹介したいなと。
著者3人の共通点は、2016年に起こった江南駅殺人事件をきっかけにフェミニズムに強い関心を持つようになったこと。
フェミニズムについて、非婚女性の暮らしについて、レズビアニズムについて語り合う過程を経て共同執筆をするに至ったそうです。
ちなみにタイトルの『笛を吹く女性たち』、初めはどういう意味なんだろう?と思ったのですが、これは著者3人が笛を吹き、その音に多くの女性たちが反応し連帯をしていくという意味が込められているんだとか。
読み終わってすぐに思ったのが、この本が家父長制社会で苦しむ女性を先導する存在になるだろうなということ。
本の中から3人の笛を吹く音が聞こえてきたのは、私だけではないはず。
非婚女性の共同生活、レズビアンの恋物語、女性間の親密性
ではここからは簡単に本の内容を紹介したいと思います。
BOSHUのクォン・サランさんは、非婚主義になることを決意するまでの過程、家族との葛藤、そして女性との共同生活を始める話について綴っておられます。
若い女性が非婚を選択することによって生じる周りとの葛藤、将来への不安、住居を契約する際の不便な点、女性の共同生活によって得られるメリットなどが事細かく書かれていて、結婚以外の生き方も選択肢に追加したい私にとってはすごく参考になる内容でした。
女性が一人暮らしをすることの危険性、結婚によって奪われる女性のアイデンティティなどを考えると、こういう生き方もありだなあと思ったり。
もちろん課題は山積みですし、いくら女性と暮らすといっても、まずは自分の中から家父長制の呪縛を追い出さないことにはうまくいかないのだろうなと思いますが。
それでも、家父長制に嫌気がさしている人にとっては理想形に近い生き方だなと思いました。
そしてBOSHUのソ・ハンナさんは、自身の恋愛経験を綴っておられます。
彼女はレズビアンで、主に女性同士の恋愛について語っておられるのですが、心理描写がめちゃくちゃ繊細でまるで彼女の中に入って目をお借りしている気分になりました。
人を思いっきり愛しそれを思いっきり表現するハンナさんの生き方に完全に心を鷲掴みにされちゃいましたね。
レズビアニズムの小説や映画には触れたことがあっても、エッセイを読むのは今回が初めてだったので、また違った角度からセクシュアリティについて考えるきっかけとなりました。
そしてイ・ミンギョンさんは、女性同士の親密性について。
例えばフェミニズム出版社ポムアラムのチームの人、脱コルセット運動のインタビューで出会った女性たち、ボランティアでインドに渡ったときに出会った女性たちなど、今まで人生のターニングポイントで出会った女性たちとの関係から感じたことが綴られていました。
今まで出版された書籍(私が読んだ範囲ではありますが)では、ミンギョンさん自身の人生についてあまり言及されていなかったのですが、今回は彼女にとってフェミニズム、女性がどんな存在であったかが細かい描写で書かれていました。
「私にとって女性は、”崖にぶら下がっているロープ”のような存在だった」という言葉から、イ・ミンギョンさんが賢明にフェミニズムの本や論文を執筆しておられる理由が少しわかったような気がします。
この本を読んでいいなと思ったのが、彼女たちが家父長制社会からの承認を目標に人生を生きていないということ。
これ、めちゃくちゃ難しいことですからね。
私達が普段目にする日常、メディアの中では女性が副次的な存在、お飾りになることが多いですが、このストーリーの中では最初から最後までずっと女性が主人公なんですよね。
都合のいいときだけ”女性の活躍”といわれ利用されるこの社会で、”(家父長制にとって都合のいい)女性の活躍、女性の幸せ”などといった言葉を無効化するパワーが著者3人から感じられました。
「女の敵は女だ」「異性愛が当たり前」「女性同士の友情は男性同士の友情より脆い」といった呪縛の言葉からフワッと解放される瞬間が幾度もあり、今女性に必要なのはこういうストーリーなのかもと思ったり。
とはいえこの社会で頭の中で描く絵を実現し、視線が向く方向に進むのは至難の業。
”(女性が考える)活躍”を実現したくても、セーフティーネットも方法も少ないし、自分のアイデンティティを誤魔化さず幸せに生きていける社会ではないのが今の現状。
目の前の生活を維持するのに必死で、フェミニズムなんて考えてられない!と思う人も多いはず。
だから、そういった女性のエンパワーメントを高めるためにも、家父長制に溶け込まなくても生きていける仕組み、機会を増やすことが何よりも必要なのですが、著者3人が行っているのがまさにそういう活動でして。
まだ小規模ではあるけれど、自分たちと同じような思いを抱えている人へ向けて笛を吹き、道を作ろうとしている著者3人には本当に頭が下がります。
3人とも数々の葛藤を乗り越えてこのエッセイを書き上げられたのかと思うと、全力で拍手を送りたくなるし、最高に幸せな人生を送ってほしいなと心から思います。
★★★
ということで今回 は『笛を吹く女たち - 女性間の生活・セクシュアリティー・親密性』の紹介でした。
個人的に本文の韓国語難易度が高めで読解に苦労しましたが、新たな視点、選択肢を増やせたので頑張って読んでよかったと心から思います。
日本に住んでいる人にも必ず届いてほしい内容なので、邦訳されることも期待したいなと。
韓国語がわかる方は是非とも読んでみてくださいね。おすすめです。
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