Koguma

自由に生きたい韓国マニアのゆったり生活

イ・ランさんの新作エッセイ『好きでしていることでも、お金は必要です』 を読んでみました。

 

こんにちは。そみ(@somi_koguma) です。

 

今回は、最近読んでよかった『好きでしていることでもお金は必要です』 という韓国エッセイを紹介したいと思います。

 

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『好きでしていることでもお金は必要です』は歌手、監督、エッセイスト、漫画家など幅広い分野で活動中のアーティスト、イ・ランさんの新刊エッセイ。

 

私は以前から著者の大ファンでして。

普段から書籍やYoutube、SNSを頻繁にチェックしていて、今回も新刊が出たという知らせを聞いてすぐに注文しました。

 

今回も書籍と著者の簡単な紹介、印象深かった部分を紹介したいと思います。

 

※今回紹介するのは韓国語で書かれた本です。

 

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好きでしていることでも、お金は必要です 

 

『好きでしていることでもお金は必要です』は主に韓国社会で女性、フリーランス、アーティストとして生きていく苦悩について書かれているエッセイ。

 

例えば「アーティストは好きなことをしているんだから、報酬の話はするな。」「報酬の話をするなんてアーティストらしくない。」というお金の圧力について、また「”女性”監督、”女性”作家、”女性”シンガーソングライター」と職業を性別で評価される社会の中で、著者が感じた葛藤や、働くことの意味について書かれています。

 

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このエッセイは全4部に分かれています。

1部『トロフィーをオークションにかけた日』、2部『自身を材料にストーリーを作ります。』は主に仕事内容、作業部屋でのエピソード、アーティストが報酬を要求することの難しさや、韓国社会における創作物の価値について書かれています。

 

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そして3部『ただの存在なんですよ』は、自身の体や顔への認識の変化、フェミニズムについての話、LGBTQ+についての話が。

4部『私の旗には』は著者の友人や猫など、大切な存在についての話が書かれていました。

 

タイトルだけを見ると仕事の話が中心なのかなと思ったのですが、仕事以外にも自身の人生の話、周りの人との関係など多様なお話がつまった1冊でした。


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またエッセイの間には箸休めのように著者の漫画も載っていて、おかしくて何だか切ないイラストにすっかりハマってしまいました。

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芸術職 自営業者 イ・ラン

  

歌手、映像監督、漫画家、エッセイスト....と二足どころか五足以上の草鞋を履いているイ・ランさんは、自身をこのように紹介しています。

 

「”ひとつのことだけしろ”と言われる人」「芸術職自営業者」「多様な方法で話をする人」「金融芸術家」「質問が止まらない人」

 

一言でまとめちゃうと、自身の人生や周りの人の人生ストーリーをすべて創作物にしている方なのかなと。

 

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イ・ランさんの文を読んでいていつも感じるのが、この方は良い意味で掴み所がない人だということ。そして、とても正直者で、人を優しく包み込む心地よさも兼ね備えているということ。

「アーティストもお金はしっかりもらわないと!」と言いながらも、本当にお金を稼ぎたいのか?と思うような活動をしていたり、焦燥感や不安を抱えていながらも、みんながアッと驚くような行動に出たり...と、一貫していないところがすごく人間らしいんですよね。

 

この本にはこういった著者の好奇心旺盛な魅力が言葉の端々に滲み出ていて、終始「ああ、かっこいいなあ」と何度も心で呟いていました。

 

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イ・ランさんの作品のひとつ、『神様ごっこ』のURLも載せておくので、興味がある方は是非。

www.youtube.com

 

ちなみに日本で出版された『 悲しくてかっこいい人 』や『私が30代になった 』などもイ・ランさんの生き方が滲み出たエッセイなので、是非こちらも合わせて読んでみてくださいね。 

 

 

韓国社会でフリーランス芸術家として生きることの苦悩

 

오랫동안 내 창작의 원동력은 가족에 대한 분노였는데, 사회에서 직업 예술가로 활동하면서부터는 너무 작은 수입에 더 큰 분노가 생겼다. 이 일을 하며 자주 들었던 말은 "네가 좋아서 하는 일에 왜 자꾸 돈 얘기를 하냐" 였다. 내가 지금까지 해 왔고 앞으로도 할 일들은 돈을 벌어 먹고살게 하는 내 '직업'이라는 것을 사람들은 잘 모른다.

引用:『좋아서 하는 일에도 돈은 필요합니다』이랑 p54 

 以下、私が意訳した文です。

 (長い間、私の創作の原動力は家族に対する怒りだったのだが、社会で芸術家として活動してからは、少なすぎる収入への怒りが大きくなった。この仕事をしながら頻繁に聞いた言葉は、”あなたが好きでしていることなのに、どうしてしきりにお金の話をするのか”だった。私が今までしてきたこと、そしてこれからもしていくことは、お金を稼ぎ、生活するための私の”仕事”だということを、人々は知らないのだ。

 

"인터뷰 페이를 요청하면 홍보의 기회가 될 수 있는 인터뷰가 취소될까 봐 두렵다."라는 말도 했다.그럼에도 나는 여전히, 그리고 열심히 한일 양국에서 인터뷰 페이를 요청하고 있다.

引用:『좋아서 하는 일에도 돈은 필요합니다』이랑 p38-39

以下、私が意訳した文です。 

(”インタビューの報酬を求めたら、広報の機会となるインタビューがキャンセルされてしまうかもしれない”、と恐れる声も耳にした。しかし私はそんな中でも変わらず懸命に、韓国と日本の両国でインタビューの報酬を求めている。)

 

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가격이 순식간에 결정되는 주식 시장을 들여다보고 있으면, 내가 지금까지 해 왔고 지금도 하고 있는 일의 가치에 대해 곰곰이 생각하게 된다.

(中略)

마스크,휴지,쌀,심지어 총기 사재기까지 이어지고 있는 공포에 질린 세계 속에서 '이야기' 는 어떻게 살아남을 수 있을까.

引用:『좋아서 하는 일에도 돈은 필요합니다』이랑 p92 

以下、私が意訳した文です。 

(価格が一瞬にして決まる株式市場を見ていると、私が今までしてきたことや、今もしていることの価値についてじっくり考えてしまう。マスク、トイレットペーパー、米、さらには銃器の買いだめまで、恐怖に怯えている世界の中で”話”はどうやって生き残っていけるのだろうか。)

 

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著者は韓国だけでなく日本でも活動をしているのですが、両国に共通するのが、アーティストへの報酬の低さだそう。

インタビューは無報酬が当たり前、報酬はお金ではなく食べ物や商品券、宿泊費交通費無料だけど仕事への対価は無しということもよくあることなんだとか。(めっちゃ失礼だな。)

 

"アーティストは好きなことをしているから。仕事ではない。"という認識は日本でも韓国でも強いですし、そしてアーティスト自身もその考えを内面化しちゃっていて、妥当な報酬を要求することに罪悪感を感じたり、自分を卑下しちゃったりしがちなんですね。

 

そしてそういった空気を先頭に立って変えていこうとしているイ・ランさん。

周りから何を言われようと、当たり前の権利を主張し奮闘する姿を見て、こうやって行動した人が後の芸術界の常識を変えていくんだろうなと思いました。

 

著者のように「私がしていることは、すべて仕事なんですよ」と堂々と言える人が増え、やりがい搾取が蔓延する社会が少しマシな方向に進んでいったらいいなあ。 

 

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質問する人、正直な人、心地いい人

 

나에게는 언제나 질문할 거리가 존재해 왔고 지금에 와서야 조금씩 그것들을 소리 내 질문하고 있다.

引用:『좋아서 하는 일에도 돈은 필요합니다』이랑 p165 

以下、私が意訳した文です。 

(私には質問したいことがいつもあった。そして今ようやく少しずつそれらを声に出して、質問しはじめている。)

 

질문은 이 사회가 어떤 방식으로 작동하려 하는지 이해할 수 있는, 아니 이해는 못하더라도 눈치는 챌 수 있는 방법이다. 왜 어릴 때 우리는 오른손으로 많은 것들을 하도록 교육받는지. 휴일은 어떻게 정해졌으며, 평일과 주말은 언제부터 그렇게 나뉘었는지. 날짜와 시간은 공통의 단위를 쓰면서 왜 언어는 몇천 가지로 나뉘어져 있는지. 입국 카두에는 왜 두개의 성별 중 하나를 선택해 기입해야 하는지. 

引用:『좋아서 하는 일에도 돈은 필요합니다』이랑 p164 

以下、私が意訳した文です。 

 (質問はこの社会がどのように作動しているのかを理解できる、いや、理解はできなくても勘付ける方法だ。幼い時、私たちはどうして右手で多くのことができるように教育されたのか。休日はどうやって決められたのか、平日と週末はいつから今のように分けられたのか。日付と時間は共通の単位を使っているのに、どうして言語は何千個にも分かれているのか。入国カードにはどうして2つの性別から1つ選択して記入しなければいけないのか。) 

 

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사진이 함께 실리는 인터뷰를 몇 번 진행하며 내게 쓰임이 있어 보였는지 점점 화보 촬영과 인터뷰를 같이 하는 일도 생기기 시작했다. 

(中略)

내가 비만이었다면 이런 일이 있었을까.

내가 이십 대가 아니었다면 이런 일이 있었을까.

내게 장애가 있었다면 이런 일이 있었을까.

引用:『좋아서 하는 일에도 돈은 필요합니다』이랑 p141

 以下、私が意訳した文です。

 (写真が一緒に掲載されるインタビューを何度か行う中で、私が使える人に見えたのだろうか。撮影とインタビューを一緒にする仕事が少しずつ増えた。私が肥満だったらこんな仕事はあっただろうか。私が20代じゃなかったらこんな仕事はあっただろうか。私に障がいがあったらこんな仕事はあっただろうか。)

 

"피부 컨디션이 좋지 않은 날은 크리에이티비티는가 떨어지지 않아요?" "피부와 크리에이티비티의 관계에 대해 말해 주세요." 내 대답은 "관계없습니다."였다. 피부가 하얗고 투명하고 잡티가 없어야 좋다는 식의 광고는 늘상 있어 왔지만 연예인도 아닌 사람들이 출연하는 광고라면, 어떤 피부의 사람이라도 편하게 드러낼 수 있으면 좋겠다 생각했다.

引用:『좋아서 하는 일에도 돈은 필요합니다』이랑 p143 

以下、私が意訳した文です。 

(”肌のコンディションがよくない日はクリエイティビティが低くなりますか?””肌とクリエイティビティの関係について話してください。”

私の返答は”関係ないです。”だった。白くて透明感があってくすみがない肌が良いといった広告はいつもずっとあったけれど、芸能人でもない人が出演する広告なら、どんな肌の人でもありのままでの姿でいられたらなと思った。)

 

이 '매력 시장'에서 살아남기 위해선 그들이 예쁘고 멋지다고 생각하는 얼굴과 몸과 말을 유지하고 살아야하나 싶은 생각이 들었다. 왜냐하면 그 출연료는 누구에게나 적지 않은 돈이었고 그 돈이 있으면 월세를 열 번은 더 낼 수 있기 때문이다. 그럼에도 인터뷰에서 거짓말을 할 수는 없었다.

引用:『좋아서 하는 일에도 돈은 필요합니다』이랑 p144

 以下、私が意訳した文です。

 (この”魅力市場”で生き残るためには、彼らが綺麗でかっこいいと思う顔と体と言葉を維持しなければいけないのかとも思った。なぜならその出演料は誰にとっても高額だったし、そのお金があれば私も月の家賃を10回払えたからだ。しかし私はインタビューで嘘をつけなかった。)

 

 

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"아니, 정말 궁금해서 그러는데 여자예요? 남자예요?" 그 질문이 몇 번이나 계속되고 모어는 으레 그 웃음으로 때우는데, 나는 무례한 질문과 모어의 어색한 대답이 불편해져 결국 큰소리로 대신 대답했다.

"그냥 존재예요, 선생님!"

引用:『좋아서 하는 일에도 돈은 필요합니다』이랑 p240

以下、私が意訳した文です。 

(”いや、本当に気になるからなんだけど、あなたは女ですか?男ですか?”その質問が何度も続いた。モア(著者の友人の名前)はいつも決まって笑って済まそうとするのだが、私は無礼な質問とモアのぎこちない返答に居心地が悪くなり、結局代わりに大声で答えた。”ただの存在ですよ、先生!”)

 

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賞を受賞したとき、賞金がないという理由でトロフィーをその場でオークションにかけたり、せっかくの高額報酬を目の前にしても嘘がつけなかったり。

アーティストはお金を要求してはいけないという空気の中で、報酬をもらう権利をちゃんと主張したり。

イ・ランさんは、暗黙の了解、作り笑い、報酬の前で信念を曲げるといった社会の澱んだ空気を換気してくれる存在だなあと思いました。

 

あと、友人に執拗に性別を聞く作家へ放ったイ・ランさんの一言、「그냥 존재예요」がよかった。この一言に人柄、知性が全部出ていて、すごく信頼できる人なんだろうなと。 

ちなみにここの그냥 존재예요をどう解釈したらいいか悩んだのですが、おそらく「私の友人は(性別関係なく)尊重されるべき存在です」と言いたかったんじゃないかなと。(この本を読んだ方で、もし他の解釈があれば是非教えてください。)

普段から頭ではわかっていても、目の前の相手と上下関係があったりしたら萎縮して声を上げにくいものですが、そういった躊躇いが一切なかった(もしかしたら多少はあったのかもしれないけど)一言「그냥 존재예요」

私もこういう言葉をスッと出せるようになりたい。

 

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★★★

てことで今回は、『好きでしていることでもお金は必要です』の紹介でした。

正直さと温かさを持った人、考えを行動に移せる人。目の前の人に頭の中のことを伝えられる人。こういう方がアーティストとして活動している事実に希望を感じます。

文化芸術やアーティストという職が何かと二の次にされがちな日本でも、このエッセイがたくさん読まれたらいいなあ。

 

フリーランスの方や芸術方面の仕事をしたい方はもちろんのこと、著者の考え方に少しでも興味をもたれた方は是非是非読んでみてくださいね。このエッセイを読んだらイ・ランさんに惚れること間違いなしです。

 

ちなみにこのエッセイの裏話は、ポッドキャストでも聴けます。

私はこのポッドキャストの中のホームショッピングの話が好きで、その部分だけでも軽く10回は聴きました(笑)ユーモア溢れるめっちゃ面白いトークですよ!

https://audioclip.naver.com/channels/391/clips/289

 

 

ではっ!

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