韓国本『善良な差別主義者』を読んでみました。

※本ページにはプロモーションが含まれています

 

こんにちは、そみ(@somi_koguma) です。

 

私の人生目標のひとつが、無害な人になることでして。

目指す無害さとは、絶対に他者に迷惑をかけないという意味ではなく、自身の無意識の言動が差別につながらないよう常に気をつけられる人のこと。

日頃、本を読み漁ったり積極的に海外に出るのも、ただ単にそれが好きだからという理由もありますが、それらの行動の根底には常に無知さへの恐怖心がある気がしますね。

 

すぐに完璧な人間になることは難しくても、少しずつ学び、時に反省しながら、自分の中にある偏った考え方をデトックスしていきたいなと思ってます。

 

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で、最近読んだ韓国本『善良な差別主義者(선량한 차별주의자)』も、私たちの日常に潜んでいる差別を鋭く指摘している1冊でして。

無意識の言動によって差別に加担している可能性があること、この世界に差別と無関係な人は誰もいないことを教えてくれる本でした。

 

    ・差別は特別な人だけがすると思っている
    ・差別が漠然としたものに感じられる

といった方におすすめしたい『善良な差別主義者(선량한 차별주의자)』

今回もこの本の内容や印象深かった部分を紹介していきたいと思います。

 

※今回紹介する本は韓国語で書かれた本です。 

 

【追記:2021年8月26日に日本語版も発売されます。】

 

 

 

善良な差別主義者

 

' 결정장애 '. 이 말을 처음 들었을 때 나는 재미있다고 생각했다. 우물쭈물 이러지도 저러지도 못하며 너무 많이 고민하는 나의 부족함을 꼬집는 간명한 말 같았다.

중략

그리고 이 말이 어느날 사고를 쳤다. 혐오표현에 관한 토론회가 있던 날이었다.

중략 

토론자로 함께한 나는 토론 중에 이 결정장애라는 말을 썼다.

 중략

토론회가 끝나고 식사를 하러 가는 버스 안에서 참석자 중 한분이 나에게 조용히 물었다. " 그런데 왜 결정장애라는 말을 쓰셨어요?" 

引用:『선량한 차별주의자』김지혜 P5

以下、私が意訳した文です 

(’決定障がい’ この言葉を初めて聞いたとき面白いと思った。 何もできず、ぐずぐずと悩んでばかりいる自分の未熟さを的確に表す言葉のように感じた。)

(そしてある日、この言葉が問題を引き起こした。それは嫌悪表現に関する討論会がある日だった。)

(討論者として参加した私は、討論中にこの’決定障がい’という言葉を使った。)

(討論会が終わり、食事をしに行くバスの中で、参加者の一人が私に静かに尋ねた。

”ところで、どうして決定障がいという言葉をお使いになったんですか?”)

 

무언가에 ' 장애 '를 붙이는 건 '부족함' '열등감' 을 의미하고 , 그런 관념 속에서 '장애인'은 늘 부족하고 열등한 존재로 여겨진다.

引用:『선량한 차별주의자』김지혜 P6 

以下、私が意訳した文です 

(言葉に’障がい’をつけることは、’未熟さ’’劣等感’を意味し、そういった観念の中で’障がい者’は常に未熟で劣った存在だとみなされる。)

 

이제 나는 겁이 나기 시작했다. 차별은 더이상 나와 상관없는 이야기가 아니었다. 강의실에서, 회의장에서, 토론회장에서, 어디에서건 나도 모르는 내 안의 차별적인 관념이 언제 어떤 형태의 말과 행동으로 불쑥 나올지 모르는 일이었다.

引用:『선량한 차별주의자』김지혜 P11

以下、私が意訳した文です  

(私は怖くなってきた。差別はもう、自分と関係のない話ではなくなった。講義室で、会議室で、討論会場で。自分が気づいていない差別的な観念が、いつどこでどんな形態で言動に表れてしまうかわからない。)

 

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これは本の冒頭に書かれていた筆者の体験談です。

この冒頭部分を読んで、ドキッとしてしまいました。

というのも、私も過去に韓国の友人と話しているとき”결정장애(決定障がい→なかなか物事を決められない人の意味)”という表現を使ったことがあるからです。

 

筆者は、自身が無意識のうちに差別的な用語を使っていたことに気づき、その反省から日常に潜む悪気のない差別、一見思いやりに見える暴力をテーマにこの本を書くことを決意します。

差別や人権に精通している筆者でさえも、無意識のうちに差別に加担してしまっていた。

専門家であってもこのような失敗をしてしまうのだから、日頃、差別や人権に関心がない人なら、なおさら自身の言動を振り返る必要があるのかもしれません。

 

自身や周りの無意識の差別を可視化する。

これがこの本のメインテーマです。

 

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本書は大きく3部構成です。

1部には、善良な差別主義者が社会でどのようにして作られるのか、自身が持っている特権を自覚することの大切さや、自分の立っている位置から不平等が見えてこない社会の仕組みについて。

2部には人種差別や性差別、正社員と非正規社員間の差別、誰かを卑下するユーモア、クィア文化祭りで可視化されたセクシュアルマイノリティーへの大衆の態度など、具体的な事例を元に、差別がどのようにして不可視化されるのか、どうして”正当な差別”と言う言葉が出てくるのかについて書かれていました。

3部には1部・2部の内容を元に、差別に対応する私たちの姿勢はどうあるべきかが書かれていました。

 

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ちなみにこの本で取り上げられている事例は、普段から人権・差別問題に関する本を数多く読んでいる方であれば、すでに見聞きしたことがあることなんじゃないかと思います。そのため、どちらかと言えば今まで差別についてちゃんと学んだことがない方向けな印象でした。

また、専門用語がたくさん出てくるので、韓国語で新聞を読めるレベルじゃないと少々難しいかなと思います。もしこの本を読んでみよう!という方はご参考までに。

 

ではここからは、印象に残った文章をいくつか紹介していきます。

 

誰しも差別に加担する可能性がある

 

나를 둘러싼 말과 생각들을 하나하나 훑는 작업은 마치 세상을 다시 배우는 느낌이었다. 나는 다른 사람을 차별하지 않는다는 생각은 착각이고 신화일 뿐이었다. 누군가를 정말 평등하게 대우하고 존중한다는 건 나의 무의식까지 훑어보는 작업을 거친 후에야 조금이나마 가능해질 것 같았다. 

引用:『선량한 차별주의자』김지혜 P10

以下、私が意訳した文です  

(自身を取り巻く言葉や思考をひとつひとつ点検する作業は、まるで世の中のことを再び学ぶような感覚だった。私は他者を差別をしないぞ!という考えは錯覚であり神話であった。誰かに平等に接したり尊重したりすることは、自身の無意識の部分まで隅々に点検してこそ可能なことだと思った。)

 

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私たちは「差別は悪い人だけがするものだ」「私は絶対に差別などしない」「私の周りには差別をする人もされている人もいない」と思いがち。

筆者の言う”私たちは善良な差別主義者だ”という言葉は、道徳的でありたい多くの人にとって受け入れ難い事実です。

でもこの事実を受け入れ学び続けてこそ、無害さに近づけ、正しい優しさを他者に向けられるのかもしれません。

優しさの半分は知識なんて言葉を耳にしたことがありますが、まさにそれなんですよね。

 

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日常に潜む無意識の差別

" 농담은 농담일 뿐 " 이라고 가볍게 여기는 생각 자체가 사회적으로 약한 집단을 배척하고 무시하는 태도와 연관되어 있다. 유머, 장난, 농담이라는 이름으로 다른 누군가를 비하함으로써 웃음을 유도하려고 할 때, 그 ' 누군가' 는 조롱과 멸시를 당한다.

引用:『선량한 차별주의자』김지혜 P90-91

 以下、私が意訳した文です 

(ただの冗談だ!という軽い考えは、社会的に弱い立場の集団を排斥し、無視する態度とつながっている。ユーモア、おふざけ、冗談といった口実で他の誰かを卑下し、笑いを誘導しようとするとき、その'誰か'は嘲笑、蔑視されているのだ。)

 

유머의 중요한 속성 중 하나는 청중의 반응에 의해 성패가 죄우된다는 점이다.

중략

누군가를 비하하고 조롱하는 농담에 웃지 않는 것 만으로도 "그런 행동이 괜찮지 않다" 는 메시지를 준다.

引用:『선량한 차별주의자』김지혜 P98-99

 以下、私が意訳した文です 

(ユーモアの重要な属性のうちのひとつが、聴衆の反応によって成否が決まるという点だ。

誰かを卑下し嘲笑する冗談に笑わないようにするだけでも、"その行動は間違っている"といったメッセージを送ることができる。)

 

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ノリが悪い、意識高い系といった理由で正常なセンサーを持った人を馬鹿にする光景を、学校で職場でテレビで幾度となく目にしてきました。

私も昔は空気を読むことが生存戦略のひとつで、差別的な冗談も沈黙でスルーしていましたが、今となってはその頃の自分が恥ずかしくて仕方ないです。

 

沈黙は同意、笑いは加担。

ユーモアに見せかけた差別発言に気づいた人からでも「それはユーモアではなく差別発言ですよ」と指摘することが大切ですね。

最低限、笑わないようにしたいものです。

 

差別をしないための努力 

 

모두가 평등을 바라지만, 선량한 마음만으로 평등이 이루어지지 않는다. 불평등한 세상에서 ' 선량한 차별주의자' 가 되지 않기 위해, 우리에게 익숙한 질서 너머의 세상을 상상해야 한다. 

 

引用:『선량한 차별주의자』김지혜 P205

以下、私が意訳した文です  

(全ての人が平等を願うが、善良な心だけでは平等は実現しない。不平等な世界で'善良な差別主義者'にならないために、私たちが慣れ親しんでいる秩序を越えた世界を想像しなければならない。)

 

내가 모르고 한 차별에 대해  " 그럴 의도가 아니었다 " " 몰랐다 " " 네가 예민하다 " 는 방어보다는, 더 잘 알기 위해 노력을 기울였어야 했는데 미처 생각지 못했다는 성찰의 계기로 삼자고 제안한다. 서로 다른 위치에 있는 우리들은 서로에게 차별의 경험을 이야기해주고 경청함으로써 은폐되거나 익숙해져서 보이지 않는 불평등을 감지하고 싸울 수 있다. 우리가 생애에 걸처 애쓰고 연마해야 할 내용은 ' 차별받지 않기 위한 노력 '에서 ' 차별하지 않기 위한 노력' 으로 옮기는 것이다.

引用:『선량한 차별주의자』김지혜 P189 

以下、私が意訳した文です  

(知らず知らずのうちに差別をしてしまったとき、'そういう意図ではなかった' '知らなかった' 'あなたが気にしすぎなだけだ'と自分を守る代わりに、もっと知るための努力をしなければいけなかったのに自分の考えがそこまで及んでいなかったと、それを省察のきっかけにするのはどうだろうか。互いに違う位置にいる私たちは、お互いの差別経験を話し、傾聴することで、隠蔽されたり慣れて見えなくなっている不平等に気づき、闘うことができる。私たちが生涯をかけて懸命に研ぎ澄ますべきことは、'差別されないための努力'ではなく'差別しないための努力'なのである。)

 

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★★★

 ということで今回は『善良な差別主義者』の紹介でした。

 

この本を読むと、善良だと思い込んでいた自分の中にも差別心が存在していることを、目の前にドンと突きつけられます。

自分の無知さと卑怯さに羞恥心が込み上がってくることもあったけど、こういった過程を経ないと無害な人間にはなれないんだろうなあと思います。

 

人権や差別のことは一度知れば終わり!ではないので、今後も生涯をかけて学び続け、想像力を磨いていきたいです。

 

皆さんもぜひ読んでみてくださいね。

おすすめです。

 

原書▼

 

日本語版▼

 

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